脳出血で倒れた父 ~医療珍道中④ リハ開始~

2019年6月10日

“死灰複然”  ― 史記 ―

【ガイドライン】

SCU(脳卒中ケアユニット)に入院後の翌日からリハビリテーションが開始される。

まだ開眼も意識もなさそうであるが、飲み込みのリハビリテーションなどして大丈夫なのかと不安になってしまうぐらい早い時期だ。

ところで脳卒中治療ガイドライン2015によると、脳卒中での入院では早期に特にSCU内でチームによるリハビリテーション介入が推奨されている。

推奨具合はグレードAという事で、『行うよう強く勧められる』になっている。ガイドラインには推奨具合までランク分けされているが『A』は最強にお勧めだ。

親父もこのガイドラインに則ってリハビリテーションが開始されたのであろう。

意外と一般では知られていないが、ざっくりいえば色々な病気に対する診療の為のガイドラインというものが実は存在する。

肺炎には肺炎診療ガイドラインが、子供の喘息には小児気管支ぜんそく治療管理ガイドラインというものがある。

つまり意外と知られていないが各病気における診療の指標となるものが存在するのだ。

【経験と根拠】

なぜその治療を選択したのか、するのか、というエビデンス(根拠)も大事なのであるが、診療にはナラティブ(経験値)も大事である。

長男が乳児であったころに、オムツ内になぜか緑色気味のうんこがでる事があり、しかもその中に粘液っぽい感じで血も混じっているという症状があった。

親としては、これは何らかの病気かも知れないと思い、証拠としてオムツにしたうんこ持参(母乳のみの時は臭くない)で小児科のある大きめの病院を何件も回るがどこの医師も首をかしげる・・・。

医師が赤ちゃんの肛門に指を入れ、触診するが異常なし。

『まぁ・・・様子を見ましょう』と言われるが、診断がつかないので親は不安でしかない。

キレイな血、いわゆる鮮血なら誰が見ても傷があるんだろうなと分かるが、粘液状なので心配になり、あえて受診しているのだが・・・分からないものなのか・・・。

そんな折、息子が高熱…風邪をひいたようで近所のおじいちゃん先生のいる開業医に赴く。風邪ごときでは病院までは行けないので、近所で済ます。

そこでふと『緑色気味のうんこに粘液状の血みたいなものが・・・』という話を・・・何をきっかけであったかは覚えていないがその話をする・・・

『あ~うんうん、奥さん母乳のみで育ててるね?』
『え、あ、はい、そうです』
『母乳オンリーだと稀に母乳のアレルギー反応でそういう粘液状の血みたいなのが出る事があるんだよね、なんの心配もないよ。うんこが真っ黒であったり、真っ白であるとよくないけどね。緑っぽいのは大丈夫』
『え?そうなんですか?どこの病院にいっても診断がつかなくて(笑)』
『最近の若い先生方では、母乳のアレルギーって分からないのかも知れないね(笑)』
『安心しました!』

エビデンス(根拠)に基づく診療知識も重要であるが、医師には経験値も必要であると痛感した事例であった。両方を併せ持った医師がいわゆる名医なのかもしれない。

【超早期リハビリテーション】

さて、そんなこんなで、言語聴覚士による嚥下リハが開始される。

まぁなんとこんな意識不明瞭な患者にいきなり飲み込ませることをするもんなのかと驚くが、目は閉じたままなのに、意外と言われた通りにやっている。

『○○さん!○○さん!』耳元で声を張る
『は~い!飲んでみて!ごっくんしてみて!』
おお~なんかめちゃくちゃ恐い。寝てるのに大丈夫か!?素人には分からない。

『は~い!そうそう、分かる!?はいごっくんして!』
『ごっくん』

お~なんとか飲めてる・・・。

『分かっているのかな?』と見ていて不思議に思える。
分かっているのなら目は閉じているが、今後に期待は出来そうで安心する。

この場にファンキーな母が居れば、『あなたね何してんのっ??』って喧嘩になるやもしれない。自分だけでよかったと思える瞬間である。

超早期のリハビリテーションは世界中のガイドラインで推奨されているが、実は強いエビデンス(根拠)はないのが実情である。

つまり、脳卒中になって入院してから24時間以内にリハビリテーションを開始し早期離床(ベッドに寝かせっきりにしない)させることで、復活も早くなると言っているが、本当にそうなのだ・・・とはまだ絶対的には言えないのである。

恐らくそうであろう・・・が正しいのかも知れない。

しかし・・・リハビリテーションをしてもらうのは有難いが・・・気になるのは、SCU内で患者の息子がそばにいるにもかかわらず、自分から挨拶して職種と名前を名乗る訳でもなく、これからどんなリハビリテーションをするのか説明もなく、リハビリテーションを開始していたことか。

母が居たら即座に教育的指導が入る事になるのは間違いない。

技術も大事だが、社会人としての振る舞いが信頼関係を構築するのであるが・・・。

まぁ病院と言うところは色々あるが、多忙過ぎて、その一手間、一声かける余裕がないのであろう。

多くは求めない・・・十分に注意しながらリハビリテーションをしてもらえれば十分有難いのだ。

しかしリハビリテーションとは面白いものである。徐々に身体状況を把握できるので客観的に状態の評価をしてもらえる。

家族は希望的観測しかしないので、元通りに近い状態になるのかなと思う人が多いが、ほぼ出血や梗塞部位と範囲で今後の残存障害の程度は把握できる。

つまり、家族は患者がたどり着くおよそのGOALは高精度で入院時に分かる時代なので、いかに今後どこまで回復するのかを現実的に理解し、その心つもりを入院早期からしておく事も重要であろう。

脳卒中初期の患者では自分自身の状況を受け入れられない、また理解できない患者が多く、例えば病状的に今後完全に立てる、歩ける見込みがないのに『もうすぐ免許更新なので行かないとね』と、普通に言う患者もいる。

家族も本人の意見を信じて、本当にそれが出来ると思い込んだらWの悲劇である。

さて父親が目覚めだしたら、どんな事を言い出す事やら。

“勇往邁進”